『採用基準』はつまるところ優れたリーダーシップ論
著者の伊賀泰代さんはマッキンゼーで勤める中で人材教育に目覚め、マッキンゼーにおいて自ら設計したポジションで12年間にわたり採用担当を勤めていた方です。
本書では彼女がマッキンゼーに勤める中で感じた日本での誤解や、求められている人材などについて明確に示していて、中でもマッキンゼーや多くのグローバル社会で求められている能力であり、日本人に最も欠けている能力がリーダーシップであると述べています。
本のタイトルは『採用基準』となっていますが、本書はリーダーシップの本と言っても過言はありません。
本書は論理立てて書かれていて、大変読みやすい構成になっているため、章ごとになぞるように内容を分解していきます。
序章 マッキンゼーの採用マネージャーとして
序章では著者がマッキンゼーの採用担当になるまでの経緯がまとめられています。
導入部なので自己紹介的な感じとなります。
第1章の誤解される採用基準
第1章では日本人がマッキンゼーに抱いている誤解について、特に問題だと思っていた5つのポイントに絞り言及しています。
5つの誤解とは下記の5点。
誤解その1:ケース面接に関する誤解
ケース面接では、どれだけ問題をうまく解けたかが重要視されているように思われているが実際は候補者がどれだけ考えることが好きか?どんな考え方をするか?という点を見極めていて、「思考プロセスが正しいか正しくないか」、「よいか悪いか」ではなく「どんなタイプの思考プロセスを持つ人なのか」を見ているとの事。
誤解その2:”地頭信仰”が招く誤解
コンサルティング業務は大きく分けて
- 1. 経営課題の相談を受ける
- 2. 問題の解決方法を見つける
- 3. 問題を解決する
の3つのプロセスに別れ、そのなかで地頭が関係するのは②の「問題の解決方法を見つける」だけであり、他の部分も同じくらい重要で、人や組織に関する深い洞察や感受性、強靭な精神力や未知のものに対する楽観的な姿勢、粘り強さ、リーダーシップなど求められる能力は多岐にわたるため、地頭だけで判断できないこと。
さらに思考力=思考スキルという誤解があるが、図表のように思考力とは思考スキル+思考意欲+思考体力のことで、面接時に見られているのは思考スキルを使いこなせているかどうかではなく、「考える意欲」と「考える体力」であるそうです。
誤解その3:分析が得意な人を求めているという誤解
問題の指摘や問題の起こるメカニズムの現状把握する能力にくわえ「あるべき姿の提示」や「新しい仕組みの設計」を行う能力が求められていて、仮説構築能力や構想力など”掘り下げる”のではなく”組み上げる”という方向の統合型・設計能力が不可欠であるとのこと。
誤解その4:優等生を求めているという誤解
マッキンゼーはなんでもできる万能型人間を求めているのではなく、何かの点において突出しているスパイク型人材を求めている。
誤解その5:優秀な日本人を求めているという誤解
マッキンゼーの求める国際的な採用基準は
- 1. リーダーシップがあること
- 2. 地頭がいいこと
- 3. 英語ができること
の3つに加え、先進国では現地語が話せるという条件が加わるため
- 1. リーダーシップがあること
- 2. 地頭がいいこと
- 3. 英語ができること
- 4. 日本語ができること
と日本語を話せることを含めた4つになるが、最近では中国をはじめとする海外からの留学生の中に、これらの条件を満たす人があらわれているとのこと。
第2章 採用したいのは将来のリーダー
第2章では求められる人材の中で必要なスキルについて述べ、それがリーダーシップであることが具体的に示されます。
日本では問題解決スキルが取り上げられ、問題解決リーダーシップに触れられることがあまりないが、より重要なのはリーダーシップであり、全員に必要だと説きます。
問題解決リーダーシップ > 問題解決スキル
第3章 さまざまな概念と混同されるリーダーシップ
第3章では日本でありがちな誤ったリーダーシップについて言及しています。
日本では特にポジション(マネージャーやコーディネーター)とリーダーシップを混同しがちであり、リーダーとは和を尊ぶ人ではなく、成果を出してくれる人だということ。
第4章 リーダーがなすべき四つのタスク
この章ではリーダーのなすべき事について書かれています。
- その1:目標を掲げる
- その2:先頭を走る
- その3:決める
- その4:伝える
決断をしない人はリーダーではないし、伝える努力をしない人も、先頭を走る覚悟のない人も、成果目標を掲げて見せてくれない人もリーダーではなく、リーダーとは目標を掲げ、先頭に立って進み、行く道の要所要所で決断を下し、常にメンバーに語りかける。これがリーダーに求められる4つのタスクである。
第5章 マッキンゼー流リーダーシップの学び方
この章ではリーダーシップは訓練で身につけることができ、そのためにマッキンゼーで置かれる状況などについて説明しています。
基本動作1:バリューを出す
何らかの成果(付加価値)を生む
どのような価値を生み出したのかを問われ続けることで漫然な作業をすることがなくなり、価値を生まない無駄な作業はさっさと切り上げできるだけバリューの高い仕事に優先して取り組もうと考えるようになる。
基本動作2:ポジションをとる
問われるのはプロセスではなく成果であり、成果につながる可能性のある結論。
自分自身の結論をもつ癖をつけることが、リーダーの仕事である「決断する」ことの実施訓練となる。
基本動作3:自分の仕事のリーダーは自分
マッキンゼーでは上下間のヒエラルキーがなく、自分を中心となる放射線状の組織図を意識させられるそうです。
このためチームとして共通の解決すべき課題のために自発的に取り組むようになるそうです。
基本動作4:ホワイトボードの前に立つ
ホワイトボードの前に立って議論のリーダーシップをとることで論点を整理して議論のポイントを明確にしたり、膠着した議論を進めるために視点を転換したりというスキルが求められる作業が新人コンサルタントにも求められ、訓練を積んでいく。
常に「バリューが出ているか」と問われることにより、プロセスや作業ではなく、結果(成果)にこだわる意識が刷り込まれる。
常に自分の意見を明らかにするように求められることで「決断する」ことが訓練される。
さらに上司に対してさえ、その知識や判断力、ネットワークを、成果目標の達成のためにどう活用すべきかという視点をもって向き合う事が求められます。
第6章 リーダー不足に関する認識不足
第6章では日本でのリーダーシップ教育にたいする認識不足とその遅れについて言及しています。
さらにカリスマリーダーではなくリーダーシップの総量が足りていないと述べています。
第7章
第7章ではリーダーシップが全ての人に求められていると述べています。
終章
最後はリーダーシップを身につけることでどのように人生が変わっていくかという内容です。
最後に
この本は優れたリーダーシップの本でありながら『採用基準』というタイトルになっています。
その理由はマーケティング的な理由もさることながら、その一方でリーダーシップが万人に必要とされる能力でありながら日本人に著しく欠けている能力であるという著者の危機感のようなものがあらわれている気がします。
普段、リーダーシップを意識しない職種やポジションにいる人にも読んでもらいたい優れた内容の本でした。
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