すこし前のやるせない話「トロントの夜」

2011年8月1日
2016年7月6日
gappacker
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この文章は2007年11月のmixiに書いた日記に加筆訂正を加えたものです。

2004年の春頃、ニューヨークのブルックリンに1ヶ月少し滞在し、
あと2週間ほどはカナダの東側の都市を回った。
トロントのユースホステルでヨハネスブルグ出身の南アフリカ人の青年達と出会い話をした。

南アフリカには1994年までアパルトヘイトという人種隔離政策があった。
単純に言い切ってしまえば白人の支配者層と黒人の被支配者層である。
感じの悪くない青年ではあったがこれは白人の青年2人から聞いた話である。

歴史的背景もあり、公用語が多いため、彼らは2人とも5カ国語を話す。
彼らは知的で教養のある青年達で英語はとても流暢であった。
5カ国語のうちの1つは現地の民族の言葉である。
舌を歯茎の裏に当て、チッとかツッとか音を出して話す言葉だ。

彼らの故郷であるヨハネスブルグは治安が悪化している。
家を囲む高い柵、2重ドア、大きな番犬は必要不可欠だそうだ。
車で走っているとブービートラップのようなものにかかり、車を強奪される。
車が故障しても決して外に出ないですぐに緊急コールしないといけないらしい。
外で飲み物を飲むと、眠らされ全てを奪われる。
エイズ感染者が多く、処女との性交でエイズが治るという迷信がまかり通っておりレイプも多い。
4歳の子がレイプされたという話をきいた。
コンドームを使わないためエイズの感染も拡大し、妊娠する被害者も増える。
妊娠した女性達は空港など公共のトイレなどで赤ん坊を生み捨てていくらしい。

行き場のない怒りを抑えるのに困りながらも
彼は吐き捨てるようにこう言った。

「They were born like shit」(クソみたいに生まれてくるんだ)

そしてすぐに

「not funny…」(面白くないけどね。。。)

と寂しそうに呟いた。

日本にいては知る事のない生の声だった。
言葉が出てこなかった。
たとえ何かを言ったとしても、その言葉はきっとすぐに意味を失ってしまったいただろう。

少しの沈黙の後
彼らはトロントでの平穏な生活について語りだした。
着いてから二週間は背後を気にしてばかりで挙動不審だったらしい。
今は銀行での仕事が見つかり住む場所を探していると言っていた。

悲惨な話や、不幸、不平等、不条理は知らないままのほうがいいのだろうか。
ただ自分が無力なのを思い知らされるとともに、自分に何ができるかはまだ見つからないままだ。

まずは知ること、関心を持つ事がはじめの一歩なのかもしれないと思った夜だった。

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