[書評] オタク的な視点でヒップホップを体系化「文化系のためのヒップホップ入門」

2013年12月18日
2017年1月25日
gappacker
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文科系のためのヒップホップ入門

オタクのためのヒップホップ入門

以前、渋谷のタワレコで見かけていて気になっていた本を読んでみた。

僕は物事を理解するには、点としての知識を増やしつつも、それらの点同士を繋ぐようなストーリーを、レイヤーのように重ねて行くことが大事だと思っています。それは時間軸や地域軸などを基に関連づける情報であったり、誰かの主観的に基づいたものであったり、時に誤りを含んだものだったりすることもあると思いますが、それらのレイヤーを重ね、濃くなって行く部分によって、抽象的なものに対して輪郭が浮かび上がるように、理解が進んでいく気がするんですね。
で、この本はヒップホップという枠のなかにある点と点を補完するレイヤー的な本の一冊だと思うのです。

音やラップについてのみならず、時代背景や人間関係などにまで踏み込んでいて、そういう意味では部分的とはいえ、ヒップホップという文化を体系化しようとした一冊だと言えそうです。

本書は対話形式となっていて、菊池成孔と大谷さんによる「東京大学のアルバート・テイラー」というJazzを語った本の構成によく似ていますね。そちらも過去に一応レビューしてるので良かったら読んでみてください。
【書評】東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編 (文春文庫)

もちろんレコードガイドではないので、この一冊で膨大なアーティスト達に触れられる筈もなく、メインストリームの誰もが知るようなアーティスト以外には触れられてもいません。そういうわけで出てくる名前はどれもMTV的な名前ばかりで、この本1冊読んでも存在すら出てこない素晴らしいアーティストは他にも沢山いたりするのですが、そういう事を踏まえたうえで読む分には面白く読める本です。

人によっては
「○○に触れてねぇーじゃん、ワックだよな。」
「マジ、ヒップホップ界レペゼンしてねーし、イルじゃねーよ。」
とか言われそうな感じもありますが、そんなこという輩はフリースタイルで自分の思うヒップホップ史を表現してくださいと言うしかありませんね。

というわけで、ヒップホップ誕生前夜からイーストコースとウエストコースト、暗黒の東西抗争時代、ヒップホップにおける女性、バウンス系のサウス、ヒップホップとロックについての話などに触れています。

初期はヒップホップというものが黒人だけではなくヒスパニックやユダヤ人なども絡んでいたものだったものが、ギャングスタラップの普及により黒人のものになったという論理展開を見せているのですが、自分の場合は英語がよくわからずに聞いていたビギーや2Pacから、英語がそれなりに理解できるようになってきたころ、リリシストにヤラれると同時にギャングスタノリに嫌気がさし、バウンス系などの南部勢にもなじめず、Anticonや7Heads、Stones ThrowやMary Joy,DefJuxなど白人も多く含まれるアンダーグラウンドヒップホップに流れたクチなので、このあたりに全く触れてないのには違和感を感じたもの事実です。

ただこの辺に触れだすと白人のラッパーとその背景や、アメリカ国外の動きなど、話がややこしくなるから敢えて避けたのかもしれません。
また、バトルMC系の話もあまり触れていませんね。そんなわけで、先ほど体系化とは言ったものの穴だらけなのも確かです。

さらにロックに触れるならRage Against The MachineやFort Minerとかにも触れて欲しかったなどという気持ちもあるのですが、まぁ、そこは別のレイヤーで補えばいいとしましょう。

個人的に同意できたというか、腑に落ちたのが、東と西の音の違いのところで、西の音が車文化に根付いているというところです。
たしかにNYといえば地下鉄ですからね。逆にそれ以外の土地は車無しでは生活しづらいのがアメリカ。
それがウェッサイ勢がセールス的に成功したことにも結び付くというのも納得ができます。

これでヒップホップを分かった気になってしまうには圧倒的に情報量は足りないんですが、それなりにヒップホップ聞いてる人が読んでも面白いですし、そんなにヒップホップ聞いてなかった人が読んでも読みやすく面白いかと思います。

第三会議室の延長のノリで、ヒップホップ論をサラリと読むにはいいんはないでしょうか。
なかなか面白かったですし、別の本が出ても読んでしまう気がしました。

よければこちらの記事もどうぞ。

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