[書評] 海外の刑務所で6年間過ごした日本人の『監獄ラッパー』

2016年4月3日 gappacker
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監獄ラッパー
身寄りのない異国の地で刑務所に入るというのはどういうことなんだろうか。
BIG JOEはオーストラリアの刑務所にいる間に4枚のアルバムをリリースしたことで注目を浴びた北海道出身のラッパーである。

彼の名前は同じく北海道出身のHIPHOPグループであるTHA BLUE HERBのラッパー、BOSS THE MCが度々名前を出していたので存在は知っていた。ただし、彼の音源に触れていたわけではなく、あのボスが一目置く男として、そしてオーストラリアの刑務所に収監されているらしい、ということだけだった。

そんな彼がオーストラリアの刑務所で6年の刑期を終え、帰国してから出版されたのが本書『監獄ラッパー』である。

海外で刑務所に入ったことを綴った話としては、極道の世界のなかで生きて行くなかでアメリカで逮捕収監され、メキシコのギャング達と家族ぐるみでつきあうようになった日本人の著書『KEI〜チカーノになった日本人』が有名だが、彼の場合は筋金入りのアウトローで経歴自体が漫画とか映画のような人である。

読んでいてもただ唖然とするような内容の話が多すぎて、映画を見ているような感覚に陥る。
一方で本書、監獄ラッパーの著者であるBig Joeは、自分たちの周りにいてもおかしくないような存在だ。法的にはギリギリのところで生きていながらも仲間を大事にし、自分の価値観に従って生きているような周りに一人はいる男。

そんな彼は、お世話になっていた先輩の危険な仕事を引き受けてしまい、結果としてヘロインの密輸に加担したとされ、オーストラリアで逮捕収監されてしまう。
6年間にも及ぶ、獄中生活のなかにあっても希望を捨てず、ポジティブに生き続けた彼の言葉。そしてそれを支え続けた彼のクルー、MIC JACK PRODUCTIONとの絆。

異国の刑務所での生活なんて苦しいことばかりだったというのは想像に難くないのだけど、彼は、苦しさを吐露するのではなく、出会った外国人収監者の話や、異文化の食の話、刑務所内で起きた出来事などをイキイキと(?)綴っている。それは全く英語を話せない状況から過酷な状況で6年間も過ごさなければならなかった男の海外留学記を読んでいいるかのような錯覚に陥らされる。

その上で、時折見せる社会システムの不具合に対する考えなども興味深い。

たしかに一見強面の受刑者たちだが、何百人という受刑者と一緒に生活をして感じる彼らの本当の印象は、僕には怖いというよりも、皆何かが欠落しているというものだ。
それは人それぞれ千差万別だが、愛情が欠落している者もいれば、人生を計画していくという想像力が欠落している者、人や社会とコミュニケートしていくことが著しく困難な者、また、ときに人生には耐えなければならないことがあるというのを知らず、極端にわがままな者など、ここには多すぎて書ききれないくらいのケースがある。
僕が思うに、本当は罪を犯してしまった者たちは、もっとも誰かの助けを必要としていたのではないだろうか。誤解を恐れずに言えば、犯罪者は社会からの助けを正当に受けられずに、そう呼ばれるようになった、いわば犠牲者なのである。

〜中略〜

忘れてはいけないのは、この殺人を犯した者は、20年後また社会に戻ってくるということだ。そのときに、この者を受け入れる社会がそこにあるだろうか。それとこの者がが20年の懲役で、自分の欠陥を克服できる術はあるのだろうか。それもまた人生とあきらめるほかないのだろうか。

〜中略〜

今現在(本当に悲しいことではあるが)刑務所は更生施設としてはまったく機能していないと僕は思っている。その逆に、犯罪者をより強力にさせ、増加させる工場の役目は存分に発揮しているとは思うが・・・・・・。

彼は人を殺したり傷つけたわけではなく、いわゆる手のつけられない根っからの悪人ではないこともあるのでだけれど、冷静に塀の中の人たちを観察し、自分の置かれた状況や環境を考察している。もちろんここで引用した部分を読んだだけでは、ミスター正義感のような人たちは偽善だと思うかもしれない。
しかし、彼は刑務所内での”ビジネス”などをみて、出所後に更生することはないであろう数多くの受刑者をみてきた上でそれを書いているのである。

ヒップホップという音楽のなかではギャングスタラップというジャンルがあって、自分の行ってきた違法行為や、いかにしてそれで成り上がるか、という点を豊かな表現力で表したクラッシックとも言える作品がある。しかし、それを表面的に模倣したギャングスタラッパーは多いし、ひょっとしたら、かつてのBig Joeもそうだったのかもしれない。

そんな彼が本書に詰め込んだのはギャングスタの生き様を肯定するのではなく、いかに刑務所に入ることがくだらないことか、そんな状況でも希望を失わずに生きれた仲間との友情、そしてかっての自分のような若者に、同じ轍を踏まないようにというメッセージが伝わって来る。

最後に自分が初めに見たBig JoeのPVを紹介。
英語がうまいとか下手とかではなく、強いメッセージ性が伝わってくるPVです。

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