WiXがWordPressのコードを盗用?GPL違反論争のまとめ

2016年11月4日
2018年1月17日
gappacker
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gpl

WiXとWordPress間で巻き起こるGPL論争

このブログはWordPressを利用しているのですが、そんなWordPressの創始者であるMatt Mullenweg(以下Matt)が10/29日に自身のブログにて衝撃の記事を投稿します。

日頃から新しいものを試すのが好きなmattがWiXのモバイルアプリを試していて、見慣れた管理画面だと思ったら、WordPressのコードが使われていたという衝撃の内容です。その記事の中でWiX宛にメッセージを発信しています。

Dear Wix

This explicitly contravenes the GPL, which requires attribution and a corresponding GPL license on whatever you release publicly built on top of GPL code. The GPL is what has allowed WordPress to flourish, and that let us create this code. Your app’s editor is built with stolen code, so your whole app is now in violation of the license.

I suppose we’ll take this as a compliment — I’m sure the hundreds of people who have contributed to WordPress Core and our mobile apps are flattered that you chose to build one of your company’s core features using our code. We’re also excited to see what great things you create with all the time you saved not having to write your own mobile editor.

You know what’d be even more exciting? To see you abide by the GPL and release your source code back to the community that gave you that jump start.

I’ve always said that the GPL isn’t about limits, it’s about possibilities. In open source software, you trade some of your control as a developer to better serve the developer community and the people using your sites and products. I don’t think that’s a limit, I think it’s a way to make sure we encourage innovation and momentum. If you want to close the door on innovation, Wix, that’s your decision to make — just write your own code. If you’re going to join the open source community, play by the open source rules.

Release your app under the GPL, and put the source code for your app up on GitHub so that we can all build on it, improve it, and learn from it.

Love,
Matt and the open source community

要約すると、WordPressの発展にGPLライセンスは欠かせなかったし、GPLライセンスは発展を制限するようなものではなく、ものすごく可能性を秘めたものである。現状ではWixはWordPressのコードを盗用していてGPLライセンスを犯しているけど、自分でコードを書くか、GPLライセンスに沿ってWixもコードを公開したらどうだい?って感じでしょうか。

この投稿に対し、Wixの社長がブログで返答したのですが、その内容を見る前に、何が問題となっているのか正しく理解するために論点を整理しましょう。

論点を把握するために理解すべきこと

WordPressはGPLライセンスに基づいて提供されているオープンソースのCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)です。

オープンソースとは

オープンソースとはソースコードが全て公開されていて、世界中のプログラマーが自由に開発に参加できる形態のものを言います。
例えばWindowsを始めとした普通に販売されているソフトウェアは一般の人がソースコードを見ることはできませんし、開発にはMicrosoftの開発関係者だけが携わっています。(※一部、例外はあると思います。)

それに対して、WordPressを始めとするオープンソース・ソフトウェアはソースコードが一般に公開されているので、会社や国などの垣根を越え、様々な人達によってバグが修復されたり、機能を拡張するためのプラグインなどの開発が行われています。現在、世界中のWebサイトの約4分の1がWordPressによって作られているという驚異的なシェアを誇っていますが、その原動力となっている一つの理由がオープンソースという仕組みによって生まれた巨大なコミュニティの力によるものであることは疑いようがないでしょう。

GPLライセンスとは

GPLライセンスというのはソースコードの公開を原則とし、誰でも自由に入手、使用、改変、再配布することを認めていて、改変して再配布する場合はGPLライセンスを引き継がなければならないというルールのことです。

わかりやすく言うと、みんなで耕した畑で収穫できた野菜を使ってなんか作ったら、畑のルールに従って提供してね。って話です。
畑の野菜を使ってるのに畑のルールを無視している人に対して畑を提供している人から注意が入ったと。

WordPressテーマのGPLライセンス違反について

GPLライセンス違反にはWordPressのテーマ界隈でもよくあり、その辺の話は西川さんのこの記事を参考にしてください。タイトル長いですね(笑)

ちなみに記事内でTwitterの発言が引用されている方は無料テーマを配布しているビズベクトルを運営している石川さんです。

GPL周りでもテーマに関しては、CSSやJavaScriptなどが絡み、さらにややこしくなるんですね。

Mattの主張と、何が問題なのか?

少し話がそれましたが、基本的なことを理解したうえで、Mattが自身のブログ記事内で主張している点について見直しましょう。

  • WixのモバイルアプリはWordPressのコードを流用(盗用)している。
  • WordPressはGPLライセンスで提供されている。
  • WordPressのコードを使用するのであればGPLライセンスを引き継ぎ公開されるべき
  • 現状、WixのモバイルアプリはGPLライセンス違反を犯している
  • 自分でコードを書くか、(GPLにして)コードを公開したらどうか

今回はWixが、GPLライセンスを引き継がずにGPLライセンスであるWordPressのコードを盗用していることにMattが触れ、現状では、警告というよりも、Wix側のGPLライセンスに対する不勉強さがゆえに起きた事故である可能性に配慮した冷静なアドバイスのように見えます。

WixはApp Storeのルールも違反している?

ちなみにWixのモバイルアプリはAppleの提供しているApp Storeでもダウンロードが可能ですが、App StoreではGPLライセンスのアプリの公開自体がグレーゾーンとなっていて、別の論争の的でもあるようです。

状況としては、この記事内で触れられている『GPL なソフトウェア について→自分達が各種権利を持っていない場合→そのソフトウェアの開発者のすべてから同意を得ていない場合』のような状況だと思います。つまりApp Storeで公開するのはライセンス違反になると。

これが正しいとすれば、WordPressのGPLライセンスを犯した上で、App Storeのルールも犯していることになりそうです。

Wixの返答

Mattのブログに対し、WixのCEOであるAvishai Abrahamiがオフィシャルブログで返答します。

ちょっと急な言いがかりに驚いてる。といった感じのスタンスで、ところどころ言い回しにクセがありそうな印象です。

Avishai Abrahamiの主張をまとめると

  • 戦ってるなんて思わなかったよ。
  • Wixは224のGitHubプロジェクトでオープンソースに貢献している
  • Wix Appは3百万行のソースコードがあり、hotels/blogs/chat/eCommerce/scheduling/bookingは自分たちのコードだ
  • WordPressのコードは使ったけどちょっとだけだ。(だってオープンソースだろ?)
  • 私たちが発明して改善したコードはオープンソースに返してる
  • 私たちがWordPressのブランドを使ったかい?私達のプロダクトは常にWixだ。
  • Automattic(WordPress.comのことを言いたいっぽい)だって、元々ただのブログだったのがWebサイト作れるようにシフトしたじゃないか、私達の真似したよね?別にいいけどさ。
  • クレジット表記が欲しいならしてあげてもいいよ。それに値する働きを君たちはしているよ、数行のラインではなく、インターネットへの貢献という意味でだけどね。
  • まだリリースしてないソースコード見たいんだったら見せてあげてもいいよ?(上から目線)
  • 何度か会おうとしてて会えてないけど、今度コーヒーでも飲まないか?

言いたいことはわかるけど、かなり論点がズレてる気がしませんか?
しかも怒りを押さえて冷静に対応しているMattのことをDudeと呼び、コーヒーに誘う?

ちなみにDudeとは、大阪弁のアホに近い、親しみのある元々ちょっとバカにした呼び方で、信頼関係がないと馴れ馴れしい感じにしか聞こえない単語だというのが僕の理解。2人の関係性をよく知らないのですが、Mattの対応からするに顔を認識してるくらいの関係性なんじゃないかと推測します。
少なくともこの場面に用いられるような単語ではないかなぁと。

Mattの返答

Wix側の返答を受け、前述したMattのブログ記事The Wix Mobile App, a WordPress JointにWixの主張に返答する形で追記されました。

  • 戦ってるわけじゃない。ライセンス違反について言及している。
  • GitHubにコードを公開しているのはいいこと。自分たちがそのコードを使うとすればライセンスには従う。
  • 自分たちが何らかのコードを公開したからって、他のコードのライセンスを違反していいってことはない。
  • GPLのコードを使って作られたものは、GPLで公開しなきゃいけない
  • もしアプリのコード全体をGPLで公開するならGPLライセンスを遵守することになるし、問題解決だよ
  • 盗用したコードが3行でも3000万行でも違反は違反だよ
  • コードを盗用したことを隠さず認めてくれてありがとう。論点ズレてるけど、コードを公開してくれたらいいんだよ。
  • GPLライセンスの理解に誤解があるんじゃないかと思うよ。GPLライセンスはトリッキーなので間違いがあるのは仕方ないよ。このコメントを読んでみてよ。
  • 悪いんだけど、Wixpressで商標とったりしてたよね?googleの検索結果にも出てくるよね?何故か今は404エラーで見えなくなってるけどね。
  • WordPressは2005年にリリースしたバージョン1.5で「テーマ」や「ページ」を採用していて、この時点で既にただのブログアプリじゃなくなってたよ。
  • (クレジット表記は)価値があるよね。でもまずはこの問題を解決しようよ。
  • (見せてあげてもいいよに対して)それがこの投稿の趣旨なんだ。GPLにして公開してよ。
  • この問題が解決したら会ってもいいよ。2014年はスケジュールが合わなかったね。

こんな感じのやりとりです。

外野の声

一連の出来事に対して様々な反応が起きています。
Mattのブログでも引用されている、イスラエルでWordCampを開いているMiriam Schwabのブログ記事です。
ちなみにWixはイスラエルのベンチャー企業です。

Miriam Schwabの書いてることを大まかにまとめると下記のような感じ。

  • WixはGPLに帰属してリリースされるべき
  • 良いことをすれば悪いことをしていいわけではない
  • Wixは当初WixPressを名乗っていて登記もWixpress Ltd.で行われていた
  • なぜ皆がgoogleを使える時代にAbrahamiはブランドをパクったことを否定したのか?
  • Abrahamiの返答にはイラついた
  • コーヒー誘ってる場合じゃなくて、裁判所呼ばれるところだよ?
  • なんで反論するのにmattの投稿にリンク貼らないの?おかしくない?

Miriamはこの騒動から学べることとして、大きく3つのポイントをあげています。

  1. 営利企業は自分のソフトウェアにオープンソースコードが入っていないか何度も確認すること。
  2. 問題に対してすぐに返答せずに、法務チームと話し合ってから時間をかけて回答すること。
  3. 自分のチームに他の文化を理解した人間を入れること

Wixのエンジニアの投稿

10月30日にWixのエンジニアであるTal KolがMediumに事の経緯を説明する記事を投稿しました。

  • 2016年の6月にモバイルアプリの開発を始めた。
  • アプリには様々な機能があり、その中のWixブログに使うリッチテキストコンポーネントが必要だった。
  • Reactネイティブで開発していたため、パリで行われたReactのカンファレンスに参加し、そこにAutomatticもブースを出していた。
  • 何人かのエンジニアと談笑し、Wixのモバイルアプリを作っていてモバイル用のリッチテキストコンポーネントを探しているといったら、彼らのオープンソースコードをチェックするように薦めてくれた。
  • 彼らのリッチテキストコンポーネットはReactネイティブに対応していなかったため、コラボレートして開発しようと提案したら、彼らはいいアイデアだと思った。(※承諾したと思い込んだ?)
  • 開発が進みtweetしたが、automatticからの返答はなかった
  • 4ヶ月半後、コードを盗んだと非難されている
  • オープンソースを愛しているし、エコシステムに貢献するのも好きだ。
  • 今思えばWordPressのリッチテキストコンポーネントが含んでいるZSSRichTextEditorというMITライセンスのものを直接使うべきだった。

この記事を読む限り悪意があるようには思えませんし、純粋によいものを作りたいという感じだったようにも思えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
自分はWordPressの恩恵に預かってる身ですし、Mattとも話したことあるため(当然、向こうは覚えてない)、どうしてもWordPressの肩を持ってしまいそうです。まぁフラットにみてもWixマズくない?って思ってしまうのですが、Miriamの記事によるとイスラエル人はダイレクトなモノの言い方をするっていうような部分もあったり、エンジニアのTal Kolの記事を読む限り、悪意があるような感じもとれません。

今後どのように進展していくのかわかりませんが、Mattはオープンソースの可能性を信じているし、オープンソースやGPLに関する理解が深まればいいなと思い、まとめてみました。意訳が多いので何か気になる点があればツッコんでください。

最後にMattがGPLについて語っている動画にリンクしておきます。
Matt Mullenweg: WordPress and the GPL

追記:11/4 100%GPLの話は余計じゃないかという指摘をうけ、内容を一部削除しました。

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