[映画] ブラジルの貧困層の闇を描いたドキュメンタリー『バス174』

2014年8月18日
2015年12月2日
gappacker
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ファベーラとその背景

ブラジルワールドカップで一躍有名になったファベーラ(スラム街)。
このファベーラやブラジルのギャングについて描いた映画と言えば『シティ・オブ・ゴッド』が有名だ。話題になった作品なので観たことがある人も多いだろう。そこにはリオデジャネイロ郊外のファベーラでストリートチルドレン達が徒党を組み、凶暴なギャングとして活動している様子が、ショッキングかつスリリングな映像で描かれていた。


この『シティ・オブ・ゴッド』の脚本を手がけたブラウリオ・マントヴァーニが同じく脚本を努めたことから『シティ・オブ・マッド』として日本で配給された映画がある。僕はその映画を観た時、史実を元にした映画という認識ではなく、同じ製作陣によるシリーズものという認識で観ていたのだが、実はそこにはベースとなったバスジャック事件があった。
そのバスジャック事件と、事件の背景にある貧困層やストリートチルドレンの問題など、ブラジルの社会構造の闇に迫ったドキュメンタリーが本作品『バス174』である。

僕のブラジル観

僕はブラジルは行ったことがないのだが、サッカーの印象が強く、子供の時からいろんな色の人がいると思ってた。ライバルのアルゼンチンには黒人がいないから、なおさらである。今となっては、先住民とヨーロッパからの移民、そして鉱山などの開拓のためアフリカが奴隷が連れて行かれたことはわかる。でも子供のときはそんなことはわからなかったし、今でも民族間の関係や構造は理解はできていない。

それでもブラジルには多様性があり、魅力的な国だという印象があって、お金と時間が確保できれば行きたい国の最有力候補の一つである。

行ったことがない国の場合、どうしても旅先で出会った人から抱いた印象が強くなってしまう。
中でもまとまって会話した3人のブラジル人の印象が強く残っている。

僕の出会った印象に残っているブラジル人

2004年、カナダのケベックシティでユースホステルで同室だったニューヨーク在住でブラジル出身の小学校教師。10代でアメリカに移住した彼はとても頭の回転が速く、ユーモアがあり、4カ国語を自在に操つれるそうだ。その頭の良さで、文字通り彼はユースホステルの8人部屋をコントロールしていた。見た目はとてもカッコいいとは言えないタイプの彼だが、話を聞いていると女性関係はなかなかうまくやっているらしい。おそらく功名な計画と、理詰めで落としていくタイプなんだろう。詐欺師になると怖い対タイプの人間だ。
そんな彼は、一時期は共和党のスピーチライターをしていたそうだが、ハンバーガーの製造をマニファクチュアリングと表現するような言葉のマジックに疲れ、バカバカしくなって辞めたらしい。その後は小学校の教師になり、給料は低いけど、子供達に囲まれているのが楽しいと言っていた。

ケベックシティへは、数年前に車で当てもなく北上を続け、辿り着いて以来、気に入って毎年のように訪れているそうだ。
確かに、ケベックシティ旧市街の町並みは美しく、公用語がフランス語であるこの場所は、ニューヨークから車で訪れるのには、気分転換には丁度いい”外国”なのかもしれない。

当時はブラジルがBRICSの一つとして注目を浴び出した頃であったので、僕は彼に資源が豊富で成長している祖国ブラジルについてどう思ってるのか、軽い気持ちで尋ねてみた。

すると彼は、「ブラジルの経済や富の大半は数パーセントの富裕層に集中していて、いろいろ問題があるんだよ。」と答えた。もっと彼に色々聞ければ面白かったんだろうが、その瞬間、僕の引き出しの中身は整理されてなかったし、頭のいい彼に付け焼き刃の質問が通用しないこともわかっていたので、答えを受けとり、深追いするのはやめておいた。しかし、その答えから、彼が共和党のスピーチライターを辞めたことに対して妙に納得できたのである。

次に印象に残っているブラジル人がビトー(Vitor)。
サンパウロ出身で留学のため、ドイツにやってきたばかりの彼とは、ハンブルグの宿で同室だった。この時は4人部屋だったが、ベッドが一つ空いていて部屋には3人が泊まっていた。もう1人は、ドイツでパイロットになるための訓練中のイラク出身のアラブ人であり、さらにお祈りを目撃してしまったことから、僕とビトーは得体のしれない気まずさを共有していた。
2006年のことだったが、2005年にもロンドンで同時テロが起きていたこともあり、イラク出身のアラブ人でパイロットという組み合わせは、その彼にとってとても不利な状況であったことは間違いない。気まずさを共有していた僕とビトーとはハンブルグで大人のおもちゃをショーウィンドウで展示しているような不思議な歓楽街を一緒に散策した。彼のサンパウロの家はとても大きいそうで、いつでも遊びに来てくれて構わないと言ってくれた。英語は苦手そうだったが、気さくでとてもいいヤツだった。

ハンブルグの後、僕はベルリン、デッサウ、ミュンヘンを経てからシュトゥットガルトに着いた。
辿り着いたユースで僕は白人に話しかけられた。
確か、出入り口の構造がわかりにくく、確認みたいな感じで話しかけられたんだと思うんだけど、普通に答えたら「どっから?」って聞かれて「日本」て答えたら、自分から話しかけて来たくせに「日本人で英語話せるの珍しいな。」と少し驚きながらも正直な感じで言われた。流暢な英語を話す彼はフランスに留学中のブラジル人だった。

彼とは翌日の朝、ロビーで会って軽く話したら、お互いポルシェミュージアムに行く予定だったので一緒に向かった。
行くまで何を話かはあまり憶えていないのだが、行っからは昔のポルシェを見ながら「これカッケー」みたいな感じで盛り上がった。
彼はパリの学生会館にいると言っていたんだけど、よく考えたら後で訪れたコルビュジェの建築作品の一つだった。なんで連絡先交換してアポとって中を見せてもらわなかったんだろうと悔やんだのは言うまでもない。彼もまた、ポルトガル語、英語、フランス語を巧みに操れる頭のいい男だった。

そんな感じで出会い、それなりに会話した3人は、みんないい奴らで知的で国際的な感覚を持った人が多いという印象だ。もちろん、3人とも明らかにヨーロッパからの移民の血を引いていて、ブラジルではそれなりに豊かな位置にいる人達であるとも思う。
だからブラジルの人、と言う意味では、僕はいい印象のほうが強い。

映画を観て

元ブラジル代表FWで、パルマ時代の中田とチームメイトだったアドリアーノは、リオのファベーラ出身である。しかも父親を目の前で殺されたという辛い経験もしているらしい。よくもそのような状況から這い上がり、世界最高峰のサッカー選手になったものだと思う。

バスジャック事件を起こしたサンドロは母親を目の前で殺され、コパカバーナでストリートチルドレンになり、そこで仲間ができた。しかし、カンデラリア教会虐殺事件で警察により仲間を虐殺される。そしてそのような恨みが、この事件の引き金になった可能性は少なくない。アドリアーノのような人間がいる一方で、その何百倍、何千倍の子供達が犯罪に手を染め、捕まったり、警察によって殺されたりしているのだ。

彼が起こした事件は正当化されるべきものではないのだが、おそらく、今のブラジルには生まれながらに不利な環境に置かれた人間が這い上がる仕組みが不十分なんだろう。
富の再分配が巧くいっておらず、かろうじて仕事があるような人達は最下層の人達を処分すべき犯罪者としか見ていない。家も身寄りもない子供たちは仕事にはつけず、犯罪に手を染め、捕まったら警官に暴行され、怒りは増幅し、犯罪を繰り返す。
映画を見ている限り、そこには人権があるようには見えないし、皮肉なことに、自ら犯罪者を増やすシステムを作ってしまっているようにしか見えない。

おそらくワールドカップの裏でも多くの子供達が殺されたであろうことを考えるととても悲しい話だ。

決して面白い映画ではないが、子供の人権や、富の格差が生み出す負の面について考えるために見てはいかがだろうか。

それでも、僕はブラジルに行きたい。。

thumbnail photo by dany13

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