[書評] 『ポートランド – 世界で一番住みたい街をつくる』は街づくりの教科書だと思う。

2017年11月20日 gappacker
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ポートランド

街づくりの教科書

コンパクトでサスティナブル、ナイキやコロンビア、ダナーなど世界的ブランドを多く排出し、全米一住みたいといわれる革新的な街、ポートランド。そんなポートランドがどのようにして生まれたのかが気になって読んだ本について書いた[書評] 革新的な街のプレイヤー達に聞く『ポートランド・メイカーズ』前回、読んだものはポートランドのプレイヤーに焦点を当てたものであったため、今回は順序が前後したものの、一冊目であるこちらも読んでみた。

ポートランドはいかにして生まれたのか

ポートランドは農業と林業で急成長を遂げた街だ。土地をどんどん切り開いていくなか、人手不足のため処分できずに放置されていた切り株の風景からStumpTown=切り株の街と呼ばれるようになったのだそう。今でさえ革新的な街として知られるポートランドだが、1970年代までは他の多くの都市と変わらなかったらしい。

モータリゼーションへの抵抗

全米で車社会化が進み、経済が発展していくなか、ポートランドは自動車交通を抑制した街であり、街を小さく保とうとしたことが他の全米の都市と全く異なる発展を遂げた理由の一つだそうだ。
現在のポートランドには20分圏内のコミュニティがいくつもあり、歩いて楽しく、必要なものは徒歩圏内で全て揃うらしい。

行政と市民、企業が一体となった街づくり

街を開発する時は古い建物を活かすために、新旧の建物を調和させ、違和感なく混在させるようにしていて、通りに面したお店は開口部に気をつかったり、通りを断絶させるような駐車場スペースなどは地下に配置するなど、通りの連続性を重視している。

ミクストユース

賑わいのある街とするため、ダウンタウンの区画開発では建物の1階は商業、2〜5階までをオフィスなど就業の場、その上を住居やホテルなどにしているそうだ。これにより都市部の空洞化現象を防ぎ、夜間のゴーストタウン化を避けられるため、常に活気のある通りができる。

エコディストリクト

1990年代の終わりから、環境都市開発の手法として、一つの地区を環境システムと捉えて施策を行う都市再生手法が取られた。これは区画内でエネルギやー水などを融通しあうシステムで、ポートランドはエコディストリクトを開発することで、全米主要都市で唯一、人口と経済の成長を遂げながら、二酸化炭素排出量を減らし続けてる都市なのだそうだ。

読んだ感想

2冊目がポートランドをベースに活躍しているプレイヤーにフォーカスした内容だったが、こちらはポートランドがポートランドとして形作られていく歴史と過程、そしてその中で行政や市民がどのように街づくりに関わっていったかなどの具体的な事例が書かれている。

前回の記事で高城剛のコラムについて触れた。彼のコラムにはポートランドは白人の割合が多く、フリーメーソンや新興宗教が影響力を持ち、過去に徹底的に黒人を排除した歴史があるというふうに書かれていた。しかし、この本を読む限り、それらは悪意に満ちた先入観による妄想であるように思える。

なぜなら、1968年にあった地域住民団体ACWPCの役員を決める選挙の結果、16人の役員候補のうち9人がアフリカ系住民、最終的には白人6人とアフリカ系住民5人が役員として任命されたとあるからだ。この年はキング牧師が暗殺された年であり、もっとも公民権運動が盛んな時代。この時にアフリカ系住民が市民活動に参加すること自体が革新的なことである。

もし、彼がそれ以前のことを言っているのであれば、それはアメリカ全土の負の歴史であり、ポートランド特有の問題では無いはずだ。

さらに、市民や行政が一丸となって街づくりに取り組むためには透明性が不可欠であり、日本人である著者がPDC(ポートランド市開発局)に勤め、これだけの情報を発信できている時点で、なんらかの秘密結社が暗躍しているような不気味さはない。むしろオープンでフェアな物事の進め方に驚くばかりだ。

まとめ

前作を読んだ後に、ひょっとしたら鎌倉(湘南エリア)は日本のポートランドになれるんじゃないかと思ったのが甘い考えだと思い知らされた。理想郷は1日にしてならず。市民と行政と企業が一丸となって半世紀近くをかけて街づくりを行ってきた結果として今のポートランドがある。

街づくりや町おこし、コミュニティづくりに興味のある人には必読書だと思える良書でした。

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