割と早い時間から高塚小屋内で寝袋にくるまり、ウトウトしかけたその時、突然サッシが開き、足元からヘッドライトで照らされた。
そして1秒後、何もなかったかのように、そのままサッシは閉められた。
(なんだ今の?)そう思った瞬間に(まぁいいか)の大波によって小さな意識はかき消される。
しばらくして尿意をもよおしていることに気がつく。
こちらは(まぁいいか)の波は来ない。
外に出て15mほど離れたトイレに行くという小さな決意を胸に、小屋のサッシを開けると、目の前に2人の人が座っている。
目の前の人影に、脳のピントを合わせながら「中、入らないんですか?」
そう聞くと同時に、話かけた相手が日本人ではない女性であることに気がつく。
あっ、と英語に切り替えようとしたその瞬間、もう一人が英語で話しかけてきた。
「We met before.(前に会ったよね)」
???
あーーー、鹿児島の「Green Guest House」であったドイツ人だ。
ん?ってことはコチラの女性が彼女ね。
屋久島来るっていうのは聞いてたけど、まさかこんなところで再開するとは。
このふたり相当な量のお菓子を買い込んで来てて、薄暗い中ピクニックみたいにしている。
ド「まだ中にスペースある?」
珍「二人なら全然入れるよ」
ド「ここで話してて平気か?」
珍「中で寝てるから、一応ちょっと向こう行こうか?」
珍「ちょっと、その前に便所行ってくるわ。w」
で、そのまま少し離れた場所でエアマットを引いて三人並んでナイトピクニックの始まり。
屋久島の話とか、この後は阿蘇山に行くとか、富士山行きたいとか原発の話とかエネルギーの話とか1〜2時間話して過ごす。
時計は全然見てなかったけれど、話終わって小屋に入ったのは、多分10時とか11時とかその辺の時間だったんだと思う。
すっかりと冷えきった寝袋にモソモソと入りながら、山で時間を気にするっという行為がナンセンスなのかもしれないと思った。
もう10年近く前になるけど、ラオスに行った時に電気のないムラに滞在した。
朝は鶏や動物の鳴き声で目覚め、夜は暗くなったら寝る。
それって本来は自然なことなんだけど、あまりに現代人の生活から遠くなっていることに驚いたことを覚えている。
エコがどうだとか、エネルギーがどうだとかとは別の次元の、もっと根源的な話。
言葉が便利だけどクセモノなように、時間や、科学や技術だって、きっと便利だけどクセモノなんだ。
そんなことを考えていた・・・ら、いつの間にか寝ていたようだ。
スタート地点から近い淀川小屋で一緒だったもう一人、別の人がいて、その人は一人挟んだ6mほど先で寝ていた。
彼とは地元が近所だったこと以外、ほとんど会話していなかったけど、当然お互いに顔は認識していた。
そんな彼が出発の準備をする音で目が覚めた。
窓の外はまだ暗かった。
僕は現代人らしく時計を確認し、彼が5:30に出発したのを確認した。
一方僕は現代人らしく6時丁度に小屋を出ることにした。
ドイツ人カップルはまだ寝ている。
声をかけようかどうか迷ったが、止めておいた。
またどこかで再開するかもしれない。
昨日、通った筈の道は、ザックを背負っていると全く別の道のようで、いくら下りが多いとはいえ、結構体力を消耗する。
こんな歩いたっけ?って思ったころに、朝日を浴びる縄文杉へ。
その後、夫婦杉、大王杉を見て、昨日は来なかった巨大な切り株、ウィルソン株に到着。
ウィルソン株の内部は広くて、もはや住めるサイズである。
そしてここからさらに歩くこと1時間。
昔は利用されていたトロッコ道を出て白谷雲水峡方面へ向かう。
この辺りに来ると、ガイドツアーの団体客と多くすれ違う。
僕は団体行動が苦手なので、どうしても見たい場所で、それがツアーでなければ行けないという場合を除き、ツアーを選択することはない。
自由度が低いし、ツアー客がいろんなところで、個人旅行客や少人数のグループに迷惑をかけているのを目撃する。
ツアー客はどこへ行ってもそうなのだが、お金を払って連れてってもらえるからなのか、ただ単に慣れていないだけなのか、なぜか横柄な態度に思えることが多いのだ。
できればそのようなグループには加わりたくないのである。
そんなこんなで、時折、こちらが道を譲るのが当然かのように歩いてくるツアー客に落胆しながらもトロッコ道を進んで行く。
トロッコ道はこれまで何時間もアップダウンする山道を歩いて来たものにとっては楽な道だといえた。
軽快に歩いていると、いよいよ白谷雲水峡に入って行く分岐がある。
おやっ、なかなか急な登りじゃないか。
ところが実際、登り出すとなかなかどころじゃない。
一回トロッコ道で楽しちゃってるので登りがものすごくキツく感じるのだ。
はぁはぁ言いながら登っていくと太鼓岩というおおきな岩の上にでれる分岐がある。
バックパックを分岐地点に置いて勢いよく登って行く。
木々の間を登って行くと大きな岩の上に出て一気に視界が開ける。
気持ちえぇー。
5分程堪能し、今度は山道を下って行く。
すると徐々に水場が近い景色に変わって行く。
そして到着。もののけ姫の舞台のモデルとなった白谷雲水峡である。
良く行く人にいわせると白谷雲水峡は雨のほうがいいらしい。
確かに雨のほうがコケは映えそう。
さらに霧が霞んでたりしてヤクシカなんていた日には素晴らしい光景になるんじゃないかと思う。
小川を渡り白谷小屋を目指します。
白谷小屋でラーメンを食べ、バス停までの残りのルートを進む。
さつき橋という吊り橋を渡って進む。
もうバス停かと思ったら最後にでっかい岩々が。これまた立派。
急に道がなくなったと思ったら岩を乗り越えて行くのね。
で、バス停に到着すると、道中なんども一緒になっている宮崎出身で鹿児島勤務のお兄さんがいた。
便所で機能性タイツを脱ぎ、身軽になってからバス停で談笑しながらバスを待つ。
お兄さんはそのままフェリーで鹿児島に帰るとのこと。
僕はまだ何も決めてなかったけど、とりあえずフェリー乗り場に行き、預けた荷物を回収することにした。
フェリー乗り場につくと、甘い飲み物に飢えていた僕はジンジャーエールをガブ飲みする。
お兄さんと少し話してから、お別れする。
結局、地元が一緒のもう一人のお兄さんと彼とは2晩同じ場所にいたわけで、同じルートを辿ったことになる。
連絡先も名前も交換していないけど、ひょっとしたら残りの人生で再開するかもしれないし、しないかもしれない。
今日の「フェリー屋久島2」はもうない。
なので宿を探してもう一泊し、明日の13:30発のフェリーに乗り込むことにする。
ターミナルの観光案内所で宿のリストをもらい眺める。
値段と地図と照らし合わせて視線を下にスライドして行くと一カ所で「!?」となった。
「民宿ふれんど」
なんというフザけた名前だろうか。
安易すぎる。が、ここだ!という直感もあった。
で、ターミナルから宿のほうへ歩く。
途中で電話し、「今、近くいるんですけど、今晩ベッド空いてますか?」と確認すると、空いているようだ。
電話越しの反応からするに、飛び込みみたいな客はそんなにいないのかもしれない。
宿につくとおばあちゃんが感情に乏しい実務的な言い方でひととおりルールを説明していく。
こちらも実務的に返事をしておく。
で、終わったので、「近くに温泉ないですか?」
そう聞いて教わった温泉へバスで向かうことにした。
風呂の準備をして宿の前のバス停から乗り込む。
10分程して辿り着いたところから奥まったところにあるそれは、温泉といっても銭湯みたいな感じ。
「こんにちわー」中に入ってビックリ。
奇麗なお姉さんが受付にいる。
格闘家の山本KIDのお姉さんみたいな感じ。
これはワザとポロりする不届きものが出そうである。
荷物を鍵付きロッカーに預け、気持ちよく温泉につかること30分。
バスの時間が限られているためでて着替えていると、
ない。
ロッカーの鍵がない。
えぇぇぇー。
確かにここに置いたよな。
まさか盗まれた?
俺が入った時にいたのはおじいちゃん一人。
いや、間違えて持ってっちゃったのか。。(汗
棚をズラして裏っ側みても落ちてない。
素直に美人なお姉さんに謝りにいく。
「あのぉ、鍵がなくなっちゃったんですけどぉ。。」
お姉さんも(へっ?)
って顔してからすぐにちょっと座っててくださいといってオーナー(?)かなんかに電話してる。
「17時前になっちゃうけど大丈夫ですか?」
何が17時過ぎかわからないけど拒否できる立場ではない。
「はい。スイマセン。。」
20分ほどしてさっそうとオジイちゃんが登場。
受付の美人さんと二言、三言、言葉を交わし、ロッカーの位置を確認したあと、躊躇せずにマイナスドライバーを隙間に差し込む。
俺は慌てて、「ウエストバッグ携帯が入ってる」とだけ、こじ開ける前に言っておく。
バコっ。
木製のロッカーがあいて俺のバッグと携帯が救出される。
おじいちゃんは何事もなかったかのように片付けをはじめ、美人さんに「ここに故障中って紙貼っておいて」と指示して立ち去ろうとする。
「あのぉ、修理代とかは。。?」
おじいちゃんは何も言わずに、あり得ないというジェスチャーで手を降り、俺を制したままドライバーなどを片付けに行った。
美人さんに「ありがとうございます。なんかすいません。」
そういうと
美「バスですか?」
珍「はい。5時のバスってもう行っちゃいましたよね。次は。。」
美「どこですか?」
珍「港のほうです。」
美「もうバスないし、私5時であがりなので送って行きますよ。」
珍「えっ?」
美「ちょっと向こうで待ってて下さい。」
うわっ、なんだこの安いエロビデオみたいな展開。
鍵をなくした罪悪感と、これから起こる筈も無いエロい展開を妄想して、よくわからない感じになる。w
美「そろそろ行きましょうかー」
(きたっ)
車に案内され、助手席にあるベビーベッドを見た瞬間、急激にしぼんで行く僕の膨れあがった妄想。
屋久島育ちの彼女は一旦長崎に出て子育てもあり、屋久島に戻って来たらしい。
珍「屋久島で生まれ育ってどうですか?」
美「この良さは一度外に出なかったらわからなかったもしれないですね。」
何を食べればいいかと聞き、首折れ鯖とトビウオの唐揚げを食べるといいとのアドバイスを頂いた。
そんな話をしていたら、民宿ふれんどの前に。
名残惜しいが屋久島美人にお礼を言って別れる。
なんだか意図せずにヒッチハイクみたいになってしまった。
今晩はどこで飯を食うか考えながら、宿の外階段を登りって部屋を目指す。
夜の部に続く。
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